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こんにちは。
Cafe LOSER店長の杉田です。
今日もごゆっくりどうぞ。
えーと、今回は、「Cafe LOSER 美術の店長」である、大槻香奈さんのインタビューをお届けします。
私、実は1年前に、大槻さんに、「Cafe LOSER 美術の店長をやっていただけませんか?」と声をおかけしていたんですよ。
でも、なかなかOKをいただけなかったんですけど、1年たってようやくOKをいただいたんですね。で、その間、大槻さん、何をしていたかというと、私のオファーを真剣に検討してくださって、みなさんからの相談を受けられるようにこっそり準備して、体制を整えてくださっていたんですよ。なんて律儀な方なんだ!
以下は、そんな大槻香奈さんに、ご自身の活動やアーティスト活動する上で大切なことについて語っていただきました。
(杉田) 最初にお聞きしたいのは、大槻さんは、どういうことをやっていらっしゃる方なのでしょうか?
(大槻) 「美術作家」をやっています。日々絵画をやっていきたい気持ちがあって、主に展覧会などを通して作品発表を行っています。それ以外に、時々イラストレーションのご依頼もお受けしているので、結果としてざっくり「絵描き」をやっている人間なんだと思います。私はもともとイラストレーターになりたくて、イラストレーションの学科がある美術大学に行って4年間勉強して、2006年の卒業と同時に、名前を出さずに商業イラストの仕事をやっていたんですよ。
(杉田) それは、個人で、ですか、それとも会社に入って?
(大槻) 個人で、ですね。だから自分で仕事をもらって食いつないでいたんですけど、それを1年間やった実感として、商業イラストのお仕事があんまり合わないと思って… イラストレーションのお仕事はクライアントの依頼に応える形の制作なんですが、私はどちらかというと、自分からテーマやコンセプトを提示して発信するアート、絵画制作のほうが向いてるんじゃないかと思ったんですね。そこで思い立って、いきなり方向転換して、2007年から独学で絵画制作を始めて、何とか個展を毎年開催するようになったんです。今2019年ですから、もうそれを12年間やっている感じです。
(杉田) 最初は大変だったんじゃないですか。
(大槻) そうですね。1年に1回、個展は必ずやるっていうのを決めて、もともと知名度なんか全然ないですから、活動しなくなっちゃったら本当に忘れられちゃうと思ったので、どんなにお金がなくても、どんなにお客さんが来なくても、そこはもう自分ルールとして決めてコツコツ、コツコツ… 全然売れないところから始めて、忍耐力とまわりの有難い協力もあって、何とか乗り越えてきたんですけど。
(杉田) そうだったんですね。
(大槻) でも今は、最初にも言った通り、絵画制作をやりながらイラストレーションのお仕事、CDジャケットや本の装画などの依頼も受けていたりするので、知らない間にもともとの自分の夢を叶えるかたちになって。イラストレーターと美術作家としての活動の両方をやりつつ、しかし後者のほうに軸足を置いてる感じで、バランスをとりながら動いている感じです。
(大槻香奈さんが担当した本の表紙)
(杉田) あと、大学で教えてらっしゃいますよね?
(大槻) そうですね。もう6年目になるんですけど、京都の嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学にお声掛けをいただいて教えています。私、デザインの領域とアートの領域と、両方に足を突っ込んでいるので、そういった意味では、ちょっとレアキャラなんですよね(笑)。だから学生さんでも、自分の作品は作れるけど、イラストレーションがしたいのかアートがしたいのか分かんなくなっちゃう人もいるので、そういう人たちを自分なら助けてあげられるかなと思って、大学の仕事を引き受けたんです。
(杉田) 私のクライアントさんでも、美大は出てるけど、そのスキルを社会で活かせてない、と悩んでいる方って多いんですよ。
(大槻) そういう方はすごく多い印象です。
(杉田) それで、自分の作品をどうやって世に出したらいいかわからない方のために、大槻さんに「Cafe LOSER美術の店長」としてアドバイスをいただけたらと思って、私、1年前に大槻さんにオファーしてたんですよね。で、ここにきて、ようやく大槻さんからOKのお返事をいただいて。
(大槻) はい、杉田さんからその話をいただいて、自分がお引き受けしていいものか、いろいろ考えたんですけど、ようやく私も相談を受ける準備が整いまして、実は今「アーティスト相談お茶会」っていうのを始めたんです。喫茶店でお茶しながらリラックスした状態で、アーティスト活動の相談を1対1で受けているんですね。相談者さんから、さっき杉田さんがおっしゃったみたいな、どういうふうに活動を展開したらいいのかとか、そもそも自分は何がしたいのか分かんなくなってるって話を色々受けているんですが、自分がカウンセリングさせて頂いたときにすごく手応えを感じたというか、その人にしかないひとつの答えに、自分は結構向き合えるのかもしれないなという発見がありました。
(杉田) もう実際に相談を受けておられるんですね!それはうれしいです。その「アーティスト相談お茶会」では、どんなことを話すんですか?
(大槻) 相談者さんは基本的に、みんな絵を描いたり、モノを作ったりするのが純粋に好きな人が多いんですけど、好きで自由にやっていきたいからこそぶち当たる壁って必ずあったりするんですよね。なので、まず根本的な、どうして絵で活動したいと思ったのか?という最初の動機を確認することから、問題解決の糸口を探ることが多いです。単に楽しく描くだけなら趣味でいいわけですよね。でも、どうしていろんな人に見てもらいたいと思ったのか? 活動して作品を人に見てもらって、そしたらあなたやそれを見た人はどうなるのか? また、あなたは売れてどうしたいのか? とか、そういうことを、話しながらひとつひとつ明確にしていきます。おおよその場合、そこまでしっかり考えられてないことが多いんですよ。アーティストになる方法とか、活動のマニュアルを書いた本やネットの記事は、探せば存在していたりすると思うんですけど、みんなにとって必要なことはそうやって探し出せても、その人の人生にしかない本当に大事なことって、結局そんな風に自分自身と孤独に向き合わないと見えてこないのですよね。
(杉田) それ、どういうことですか?
(大槻) アーティスト活動するには、「その人にしかない答え」が必要なんですよ。目的と言い換えてもいいかもしれない。「アーティスト相談お茶会」では相談者さんとの対話を通して、それをなるべく正しく見つめるためのお手伝いをしている感じなんです。私にも、私にしかない答えがあるから、私独自の動き方をしているわけで。アーティストは時に孤独かもしれないけど、そのクリアな答えが導き出せると、個性がちゃんと輝いたり、その人にしかない強みを生かした形で、うまく活動していけるんじゃないかと考えているんです。
アートやデザインに関する基礎的な教育を受けるのって、まず選択肢として大学や専門学校があるじゃないですか。そこで歴史のことや技法についてだったり、あと現実的な仕事の取り方についてだったり、例えば就職するんだったらこういう風にWebやポートフォリオを作ると良いよ、とか教えてくれたりする。専門の先生が各学校にいらっしゃるから、そこは受験してお金を払って聞きに行けるわけですよね。
(杉田) はいはい。
(大槻) 私も大学では、主にアクリル技法を中心にしながらアートやデザインの領域について教えているのですけど、そこで行われている授業って、個人に向けてというより、おおよそ学生全体に向けてしゃべっているんですよ。そういう場だと、みんなにとって重要なことは話せるけど、各個人に対しての重要なことって、授業の中だけではなかなか話せなくて。
ときどき放課後を使って私に相談をしに来る学生がいるんですけど、そこではみんなすごく個人的な、具体的なことを質問していて。そういう学生は、おおよそ既に自分の中でいろいろ孤独に考えてきたことがある人なので、そこでの私は教員としてというより、ひとりの作家として向き合う事が多いんです。教壇に立ってしゃべっちゃうと色んな誤解を与えてしまうけど、その人個人に向けて話すとちゃんと響いてくれるような話って、結構いっぱいあるんですよね。
大学内だと、授業と放課後をフルに使って、一般的な教育と個人的な相談会の両方ができるので、嵯峨美の学生はうまく私に頼ってくれたら良いなと思っているんですけど。学外でももっと気軽に、悩める誰かの手助けができればいいなと思っていて。そんなときに「アーティスト相談お茶会」がうまく機能してくれたら良いなあと思っているんです。
(杉田) なるほど。
(大槻) あと私は、普段いろんな人の展覧会を見に行くんですが、そのときに、作家さんがたまたま私のことを知っていたりすると、作品のアドバイスください!みたいなことを言われることがあって。でもここで正直に感想を言っちゃったら、例えば良いことを言ったら、「やった、褒められた!」ってなって過剰反応しちゃうかもしれないし、まともにアドバイスしちゃったら、もしかしたらすごく傷ついちゃうかもしれないし、どちらにせよ本音で話しにくくて私が疲れちゃう…という感じがあって、以前ちょっと悩んでいたんですよ。なのでそういう時にも「アーティスト相談お茶会」を使って頂けたら、こちらも安心して本音で話せるので良いよね、と思っています。相談者さんのお悩み内容も、私がちゃんと秘密にすることを約束しているので、安心してお話しいただけると思うし、そういったお互いのノンストレスを模索した結果生まれた企画でもあるんです。
(杉田) なるほど。だから、1対1のお茶会なんですね。今までどんな方が、大槻さんの所に相談に来てるんですか?
(大槻) みなさんそれぞれ、立場とかキャリア、年齢、本当にバラバラです。もう既にプロとして立派な活動をされている方でも、私に何か聞きたいことがある方は来られたりします。あと、絵を描いているだけでまだ何も活動したことがない方、そもそも何で悩んでるのか分からなくなってる…みたいな、もやもやしてる方も来られます。
そのほかにも趣味で作品制作をされている方とか。例えば、私もアーティストなので分かるんですけど、画家として、絵描きとして自分の思想を追求したくて制作されている方もおられるので、それを踏まえたうえで、純粋に絵のクオリティーを高めるにはどうしたらいいかと相談する方もおられます。
作品形態のジャンルも様々で、絵画のような平面作品の方もいらっしゃれば、インスタレーション、立体の方もいらっしゃいます。あるいは漫画を描いている方とか、絵本を作っておられる方とか、本当に様々です。なので「アーティスト相談お茶会」の参加において大事なのは、私に相談したい、聞きたいことがあるかどうかかなあと。
私はふだん「Twitter」での発信とか、「pixiv FANBOX」内でのブログ、あと本でもいくつか自分のことを書いたりしていて、自分の考えを定期的に外に発信するようにしているんですけど、そういうところからちょっと気になった方は、いつでもウエルカムって感じです。
(杉田) そうなんですね。その「アーティスト相談お茶会」は、いつ開催しているんでしょう?大槻さんのホームページに、お茶会の予定とか書いてありますか?
(大槻) あります。
(杉田) そこを見ていただいて、その方が来れそうな場所とか日時があったらっていうことですね?
(大槻) そうですね。Twitterでも定期的に呼び掛けをしています。作品がみれる画像かポートフォリオを当日用意して頂いて、そのほかは特に大きな準備は要らないので、気軽にご参加いだければいいなあと。
(杉田) わかりました。最後に、大槻さんは、アーティスト活動が、うまくいく人といかない人の違いって何だと思いますか?
(大槻) アーティスト活動なんて、基本的には好きにやったらいいと思うんですよ。でも好きにやってもうまくいく人といかない人がいて、うまくいく人っていうのは、ターゲット層に向けてどうすればうまく伝わるかっていうことを、正しく考えられている人だと思うんですね。そういう人は、困難があっても結果的にうまくいくんじゃないかと思うんですけど、あれ?なんでうまくいかないのかな…っていう人は、やっぱりどこかで、きちんと考えられていないポイントがあるんです。作品との向き合い方や発表方法、活動における誠実さであったりとか。あとそれだけじゃなくて、時代性もありますね。自分の作っているものが必ずしも今自分の生きてる時代に受け入れられるとは限らないので、それについて向き合ってみたりとか。いろんな角度から、細やかな見直しが必要になってきます。
(杉田) そこ、面白いですね。アーティストって、世の中のこととか関係なく、好き勝手にやってるもんだと思ってました。
(大槻) 全然、逆ですね。好き勝手にやるのは人生経験としてあっても良いとは思いますが、長くは続かないですよね。そういうタイプの自由もあるけど、人間にはもっと、自分や周りを含む世界をより豊かにしていく自由があると思うんですよ。うまく活動していくことって、結局そこに向かうことなんじゃないかなって思う。だから世の中のこと、今現在ができるまでの歴史のこと、いろいろ勉強したうえで自分の動き方を考えていく必要があるし、そのほうが結果的に気持ちよく動けるんじゃないかと思っています。
もともと何も知らないうちから絵が好きで、作ることが好きな気持ちだけで活動を始めたりする人が殆どだと思うので、特に何も学ばなくても好きにやっていけると、わりと信じてしまいがちなのかもしれません。基本的に私は、他人のそういう部分をみても、「今はそういうふうにしたいんだね」と思ってそっとしておくのですが、本人はノリノリでやってるのかなと思ったら意外と迷って苦しんでるみたいな… 自由過ぎて最終的にどこに向かえばいいのか分かんなくなっていたりすることって、よくあって。なのでそういう時に寄り添って手助けしたいというか、今やるべきことを一緒になって考えたい。そういうことって、本人が困難にぶち当たった時じゃないと、真面目に話せないというか、心に響かないと思うんですよ。だから私は、基本的にはみんな好き勝手にやってほしい。けど、それをやって、もしうまくいかなかったらいつでも相談室に来てね、っていう気持ちでいます(笑)。
(杉田) いやぁ、それすごく良い話ですね。今日は本当にありがとうございました!
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